令和元年度学生による発表
-岐阜市周辺地区における活性化のための調査-一日市場地区の祭礼を事例として-
発表原稿
国際文化学科 S.A T.S T.O I.A
1.はじめに
昨年度、私たちは「岐阜市内の「小さな神仏」-地元文化の再認識のために-」をテーマにし、各地域で住民が守ってきた道端の神仏像など、いわば「小さな神仏」の再発見も住民が地元に対する誇りや自信を再確認し、地域の活性化につながる素材になるのではないかとの考えから、本学が位置する一日市場地区での地蔵尊の祭礼や川祭りの現状について調査しました。調査を通じて、これらの祭礼を担当してきた老人会がメンバーの高齢化のため解散し、自治会が祭礼の実施を引き継いでいること、自治会ではこれらの祭礼を若い世代に継承していくことを望んでいるが、子供の参加が少ないことを心配し、子供たちにも関心を持ってもらいたいと思っていることがわかりました。そこで私たちは、一日市場地区に伝わる祭礼を地域住民が地元に対する誇りや自信を再確認し、地域の活性化につながる素材とするためには、子供たちにもこれらの祭礼に関心を持ってもらうことが重要ではないかと報告しました。 そのため今年度は、川祭りおよび地蔵尊の祭りと子供たちとのかかわりに焦点を当てて調査し、次に子供たちと地域の祭礼とのかかわりを考えるため、一日市場地区の子供たちが通学する合渡小学校の児童たちによる「いこまい、中山道宿」という行事への参加を観察しました。本日はそれらについて報告をします。それに先立って、本日の報告と関連する神仏などの位置について確認しておきます。これが一日市場地区です。ここが岐阜市立女子短期大学で、お紅の渡しがここにあります。一日市場地区で最も大きな神社である小柳神社がここにあり、浄土真宗光顔寺がここにあります。地蔵尊は水防詰所のそばに不動尊と並んで祀られています。またご神体はありませんが、水の神を祀る川祭りがここで行われます。この他、一日市場地区の子供たちが通う合渡小学校はここにあり、ここからさらに南に行くと、中山道の河渡宿であった河渡地区に至ります。
2.川祭りと地蔵尊の祭り
(1)川祭りと地蔵尊の祭り
先ず川祭りについて報告します。川祭りは水害防止を祈願するもので、今年は7月20日夕方5時半頃から、岐阜市内の金神社から神職が来て行われました。場所は水防詰所そばの堤防の上です。参加者は自治会メンバーを中心に6~7人で、親に連れられた女子児童も1人いましたが、昨年の調査報告同様、その他に子供はいませんでした。 次に地蔵尊の祭りについて報告します。これは地域の安全を祈願するためのもので、今年は8月25日夕方5時半頃から地蔵尊を祀る小屋の前で行われました。普段は扉が閉まっていて姿が見られない地蔵尊が、この日だけは見ることができます。地蔵尊の前で光願寺の住職による読経が行われました。昨年の調査報告では地蔵尊の祭りにも子供の参加がないということでしたが、今回は子供たちが20人近く参加して賑わいが感じられました。子供たちは住職の話を聞いたり、住職が読経している際、地蔵尊に手を合わせたりしていました。なお、暑さのためか高齢者の参加はすくなかったです。
(2)自治会の働きかけと子供会の参加
このように川祭りには子供の参加がみられず、一方、地蔵尊の祭りには子供の参加がみられ賑わいが感じられた点について後日、自治会の会長に尋ねてみました。自治会長によれば、昨年の私たちの調査報告を見て、若い世代にも祭りを伝えていきたいという思いが強くなり、今年から地蔵尊の祭りを「地域保存事業」として行うことにし、子供会に協力を依頼して子供たちに参加してもらったということでした。来年以降も子供会と協力して地蔵尊の祭りを盛り上げていきたいと考えているということでした。 次に子供会の会長に話を聞きました。子供会の会長によると、ほとんどの子供が祭りをした場所に地蔵尊があることを知らなかったので、知ることができたのはよかったのではないかとのことでした。ただ、自治会が地蔵尊の祭りを「地域保存事業」として続けていきたいという考えがある一方、子供会としては、3月の小柳神社の祭りで子供神輿を出すことが最大の行事であり、来年以降も地蔵尊の祭りに参加し続けるかは今のところ未定ということです。 今年の地蔵尊の祭りの様子から、たしかに子供の参加は地域の祭りを賑やかにし、また子供たちの郷土意識を育む第一歩になるとも思われました。そこで私たちは、一日市場の子供たちも通学する合渡小学校での郷土教育に関心が及び、小学校が郷土教育の一環として実施した、「いこまい、中山道河渡宿」という行事への児童の参加の様子を観察しました。
3.小学校での郷土教育と行事への参加
(1)観察
合渡地区は一日市場、曽我屋、寺田、地元でカワゴウドと呼ばれている河渡の4地区が合わさって成り立っています。この発表では以後、サンズイの「河」の河渡をカワゴウドと呼びます。自治会も一日市場自治会、曽我屋自治会、寺田自治会、河渡(カワゴウド)自治会で合渡自治会連合会を構成しています。これら4つの地区の子供たちは合渡小学校に通っています。 毎年10月の最終日曜に河渡(カワゴウド)地区で「いこまい、中山道河渡宿」という行事が開催されます。今年は10月27日に行われました。子供たちは小学校に集合し、午前9時前に河渡(カワゴウド)の馬頭観音に向かって出発しました。馬頭観音では僧侶が読経した後、武士や忍者などに扮した人々の行列が出発し、子供たちもこれに続いて杵築神社まで歩きました。杵築神社の境内では様々なグループによる出し物が披露され、合渡小学校でも3年生が踊りを、4年生が楽器演奏を披露しました。他の学年の子供たちは催し物を見たり、神社の境内を見学したりしました。
(2)考察
合渡小学校の子供たちの「いこまい、中山道河渡宿」への参加を見て、考えたことがあります。一つ目は、合渡小学校には一日市場、曽我屋、寺田、そして河渡(カワゴウド)の4つの地区から子供たちが通っています。子供会も一日市場子供会、曽我屋子供会、寺田子供会、河渡(カワゴウド)子供会の4つがありますが、河渡(カワゴウド)地区で行われる「いこまい、中山道河渡宿」では河渡(カワゴウド)子供会の子供たちが武士や忍者などに扮して行列に参加したり、子供神輿を担いだりしているようでした。このため合渡小学校の子供たちの中に、住んでいる地区(所属する子供会)の違いによって積極的に行事にかかわれる子供とそうでない子供とが生じているのではないかと感じました。 二つ目は、「いこまい、中山道河渡宿」には一日市場地区の自治会長も出席していましたが、この行事を中山道の宿場町であった河渡(カワゴウド)を中心にした行事とするなら、合渡地区を構成する他の3つの地区は行事からはずれてしまうのではないかとも感じました。私たちは岐阜駅前や柳瀬などの岐阜市の中心地区の活性化だけでなく、周辺地区での活性化も重要であり、地域の祭りでの賑わいが活性化の要素の一つになるのではないかと考え、一日市場地区での調査を行っています。ところで岐阜市の周辺地区である合渡地区にあっては、中山道の宿場町というアピール・ポイントをもつ河渡(カワゴウド)地区とそうでない他の地区との間に、活性化の取り組みに差が生じるのではないかと懸念されます。 「いこまい、中山道河渡宿」には岐阜市長をはじめ多くの来賓が出席し、地域活性化のための重要な行事とされていることがわかります。合渡地区は岐阜市中心地域からみれば周辺地域ですが、合渡地区の中にあっては河渡(カワゴウド)地区がその中心となり、他の3つの地区は周辺となります。すなわち周辺地域の中でもさらに、アピール・ポイントをもつ中心とそれのない周辺とが生じ、周辺地域の中の中心地区ではアピール・ポイントを使って活性化が試みられる一方、周辺地域の中でもさらに周辺となってしまう地区の活性化は一層厳しくなるのではないかと思われます。
4.提案
一日市場地区もそのような「周辺の周辺」に位置しています。今回の調査でみられた課題を考慮して、一日市場地区の活性化のためにどのような提案が考えられるか、検討してみました。 まず一日市場地区がもつ「周辺の周辺」という課題を解消するために、他の3つの地区と一緒に合渡地区としての活性化を図ることが考えられます。子供たちの郷土意識を育むことで言えば、合渡小学校での子供たちへの郷土教育では4つの地区の伝統文化を均等に取り上げる機会が重要になります。地元の郷土史家などの協力も必要になるでしょう。「いこまい、中山道河渡宿」の行事では、河渡(カワゴウド)子供会以外の、合渡小学校の子供たちが10名程度、地元の郷土史研究グループ「わんわん会」のメンバーと共に行列に参加していると聞きました。また、合渡小学校ではすでに、子供たちが「わんわん会」の人から曽我屋地区の歴史や神社などについて学ぶ機会を設けているという話も聞きました。このような機会をさらに充実させることも方策の一つと思います。 また、アピール・ポントがみつからない地区では、地区で行なわれる祭礼を取り上げることも方策の一つであり、祭礼を賑わすことは各地区それぞれの活性化にもつながります。一日市場地区の場合で言えば、3月の小柳神社の祭礼では子供会の行事として子供神輿のグループが3組つくられ、3つの子供神輿が一日市場地区をまわります。普段静かな一日市場地区に、この日は神輿を担いでまわる子供の声が響きます。子供たちが参加した今年の地蔵尊の祭りの賑わいもすでに紹介しました。やはり祭礼への子供たちの参加が地域の活性化の重要な視点の一つになると思います。今年の一日市場の地蔵尊の祭りではお菓子は子供たちに配られましたが、子供たちが喜んで参加できる仕組みも重要だと思います。 また、地域は子供たちだけでなく高齢者も含めて成り立っています。高齢者と子供たちとが共にかかわることが地域をさらに活性化させると考えられ、そのための仕組みづくりが必要です。合渡小学校ではコミュニティ・スクールという組織をつくって、一日市場、曽我屋、寺田、河渡(カワゴウド)の各地区で「夏の寺子屋」と題する夏休み中の子供たちへの学習活動を行っています。そこでは地区の大人たちが子供たちに勉強を教えており、子供会の他にも大人と子供がかかわる仕組みはすでに存在しています。このような仕組みを活用して、老人会が解散してしまった一日市場地区ですが、高齢者と子供たちとが一緒に様々な活動をする機会を広げていくこともできるのではないかと考えます。