岐阜市立女子短期大学研究紀要 第53輯(平成16年3月)

抄録

On verna system in India

神谷信明
Nobuaki KAMIYA



Abstract

インドにおけるヴァルナ制度はヒンドゥー教にまつわる身分制度である。バラモンより遥か昔の3000年ほど前に来たインドの アーリア人は、ヨーロッパ系の白色人種系であった。彼らは先住民族(ドラヴィダ族)を滅ぼして、verna(ヴァルナ)という身 分制度を作り上げた。ヴァルナとは「色」を意味し、それは肌の色による身分の上下差別であった。当然、支配者であり、肌色も 白い自分たちを上位におき、被支配民族を下にした。その後アーリア人の中でも社会的機能(仕事)による区分ができた。即ち宗 教儀礼を専門とするバラモン(Brahmana 司祭)を最上位に、軍事・政治を司るクシャトリア(Ksatriya, Rajanya 王族、武士)、商 工業活動に従事するヴァイシャ(Vaisya 平民)、その下には被支配民族のシュードラ(Sudra 奴隷)という4つの階級を作り上げ た。この古代的身分制度が、インドのカースト制度の基本となっており、やがてこの枠中から、ヴァイシャ、シュードラはそれぞ れの職業別にさらに細分化されてゆき、2000とも、あるいはそれ以上ともいわれる多数の区分が、中世的身分制度として固定化さ れていった。この区分は、職業を生まれたときから世襲化するものなので「生まれ」を意味するjati(ジャーティ)1と呼ばれてい るもので、これがインドのヒンデゥー社会では、非常に強い影響力を持って、人々を束縛し、社会の掟の基礎をなしている。一度 決められたカーストはどんなに努力をしてみてもそこから決して抜け出せないのである。 カースト(ポルトガル語で血統を表す)制度で特に問題とされるのはシュードラより低位とされる、いわゆる不可触民2(アチュー ド、アンタッチャブル、ハリジャンとも呼ばれる)の存在でである。カースト内の位置すら与えていないこの不可触民の人たちは、 触れただけ(あるいは目にしただけ)でも穢れるものとして、カースト・ヒンドゥーから差別されてきた。1億人(インドの人口 が約9億人)近くいるといわれるこのアチュードは、社会の底辺で大きな労働力を提供しているのに、社会的地位は非常に低いま まである。 こうしたヴァルナに基づくカースト制度の由来とジャーティ及び不可触民の実態を明らかにしたい。

キーワード 《verna, jati, harijan》